研究内容

植物の細胞内構造と空間情報を制御するシステムの解明

細胞分裂停止後、殆ど大きさを変えない動物細胞とは対照的に、植物細胞は分裂停止後、100倍以上にも体積を増大させます。この『細胞成長』は、地球上のバイオマス生産の80%以上を占める植物の旺盛な成長能力の主要因です。私たちは、この高い成長能力の実現に必須な「細胞内構造と空間情報を統御するシステム」に着目した研究を推進しています。

植物細胞の成長の駆動力の主要因は「液胞の巨大化」です。液胞は吸水成長し、細胞を中から押し広げます。その一方で、液胞は最終的に細胞体積の90%を占めるまでに巨大化することで、核・ミトコンドリアなど、他のオルガネラ(細胞小器官)の動態を制限する物理的障壁ともなり得るため、巨大液胞は「諸刃の剣」とも言える存在です。しかし、植物細胞が巨大液胞の存在にどのように対処し、どのように他オルガネラの空間的自由度を維持しているかは分かっていません。

私たちは、共焦点レーザー顕微鏡を用いた独自の『4Dイメージング技術』と『画像解析技術』を駆使して、巨大液胞が迅速かつダイナミックに構造を変える様子を捉えることに成功しました。現在、細胞骨格制御系に着目しながら、液胞構造制御の分子的実体と生理的意義の解明に取り組んでいます。

関連リンク:
[高次構造体] 2022年度採択課題 | さきがけ

環境ストレスに応答して植物細胞の成長活性を最適化する遺伝子ネットワークの解明

高い成長能力をもつ植物細胞の中でも、根の表面から生える毛のような細胞である『根毛』は最も活発に成長する細胞のひとつです。その成長速度は、2 µm/min以上に達し、わずか5時間程度で長さ500 µm以上にも成長します。動物細胞の多くが直径20~30 µmであることを考えると、この成長速度は驚異的です。根毛は、根の表面積を増やし、水分・養分の吸収効率を高める重要な役割を担っており、土壌環境の変化に応答して、長さを柔軟に変えます。これにより、植物は不良土壌に適応して、植物全体の成長を持続することができます。私たちは、土壌中のリンの不足に応答して起こる根毛成長活性の急激な上昇に、植物ホルモンの一種であるサイトカイニンが重要な役割を担うことを発見してきました(奈良先端大・梅田研究室との共同研究)。最近は、農業の現場で問題となりつつある土壌の温度変化を想定し、土壌温度に応答して根毛の成長活性を最適化する遺伝子ネットワークの全容解明に取り組んでいます。

植物の環境ストレス耐性を強化するバイオスティミュラントの開発

私たちは、化学との異分野融合研究を通して、植物に環境ストレス耐性を付与する化合物(バイオスティミュラント)の開発研究を展開しています。

植物は、発芽から収穫までの成長過程でさまざまなストレスに晒されます。これらは大きく「生物的ストレス(Biotic Stress)」と「非生物的ストレス(Abiotic Stress)」に分けられます。前者は害虫や病原菌による被害、後者は高温・乾燥・塩害など環境由来の要因です(下図)。近年、気候変動の影響により非生物的ストレスが増大しており、品種改良を含む従来の農業技術では十分に対処できていないのが現状です。その結果、植物が本来持つ潜在的な収量のうち、収穫時に残るのはわずか20%程度といわれており、非生物的ストレスへの対応は、持続可能な農業における喫緊の課題となっています。こうした中で注目されているのが「バイオスティミュラント」です。バイオスティミュラントは、植物の生理機能に作用し、環境ストレスへの耐性を引き出す化合物のことを指し、新しいタイプの農業資材として、気候変動下での作物の安定生産に資する手段として期待されています。私たちは、特に、近年農作物に甚大な被害をもたらしている温暖化環境において、農業生産の持続に資するバイオスティミュラントの開発に注力しており、化学系との融合研究を通じて、植物の高温耐性を著しく高める効果をもつ有力な化合物を得ています。このシーズを事前に投与しておくと、非投与個体の葉が白く枯死してしまう過酷な温度に晒しても、成長を続けることができます(下図)。(化合物の詳細に関しては、特許出願前のため秘匿)

私たちの化合物には、既存のバイオスティミュラントにはない特長があります。この特長を活かして、今までにない革新的なバイオスティミュラントを開発し、最終的には国際特許出願やスタートアップ設立といった形で、社会に役立てていきたいと考えています。

本プロジェクトは、会社設立前ではありますが、経済産業省管轄の中小企業基盤整備機構が提供する事業化支援プログラムFASTARの13期支援企業に採択され、スタートアップに向けた準備を進めています。本技術にご興味をお持ちの方は、h-takatsuka(at)cc.nara-wu.ac.jp (※(at)を@に変換してください)にお気軽にお問い合わせください。

関連リンク:
FASTAR13期採択企業

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